ブルガリア南東部からトルコのイスタンブール近郊まで、黒海南西岸のトラキア地方に分布するモグラです。草地、牧草地、果樹園などの土中で捕獲されています。
体はベルベットのような密な黒っぽい毛に覆われ、腹側は少し明るい青灰色です。尾は短く、黒い剛毛があります。
マルティノモグラは、黒海南西岸のトラキア地方にすむモグラです。目の表面は薄い透明な皮膚でおおわれ、上あごの最初の奥歯には、ほかの多くの仲間にある小さな突起がありません。
二〇一八年の研究では、ブルガリアで採られた十四匹と、ほかのモグラの博物館標本を調べました。目の周りは十倍の拡大鏡で確かめ、頭骨や歯も見比べています。姿の似たレバントモグラなどとの比較では、体や頭骨の寸法が重なる部分もありました。
そこで重要になったのが、八匹から調べたミトコンドリアの遺伝子です。八匹の配列はほぼ共通し、分析したほかの種類とは別のまとまりをつくりました。著者らは、奥歯や目の特徴と遺伝子の結果を組み合わせ、この地域のモグラを新しい種として記載しました。地下の暮らしに向いた姿が似ていても、歯の小さな形と細胞の中の情報を重ねることで、それぞれの違いが見えてきたのです。
絶滅のおそれの評価は、まだ掲載していません。
イスタンブール北部鉄道計画の二〇二六年一月の環境影響評価は、このモグラを分布範囲の限られた地域固有種として取り上げ、生息する可能性を検討しています。保全の基礎を整えるには、現地のモグラの種類と生息場所を確かめる調査が重要です。二〇一八年の原著で記録された湿り気のある草地や果樹園、川沿いの林などを保ちながら、土地利用の変化に伴う影響を調べることが求められます。